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めざせもののほん

シベリア鉄道/スタカーン/スケベ/さようなら

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学生時代、シベリア鉄道に乗った。進行方向は東西逆で、途中イルクーツクで下車して滞在した点は異なるが、"外国人には推奨されていない"三等車に端から端まで乗った点は上記記事と同じ。


自慢では無いが私のロシア語力は、大学で第二外国語にロシア語を選択、5単位取るのに丸3年かける、という体たらくぷりで、当時ロシア語履修中にも関わらず、分かるロシア語は中1英語にも満たないレベルであった。実際、現地でロシア語はほぼ役に立たなかった。


自慢では無いがという書出しで本当に自慢にならないことを書く人生もあって良いと思う。海外で2〜3週間過ごしたくらいで変わる柔軟な価値観を備えて生きることも、自由であるのと同じように。


そんな中で、唯一役に立ったロシア語が「стакан(音:スタカーン、訓:コップ)」である。シベリア鉄道では各車両に、無料で無限に飲用のお湯が出てくるポットが設けられている。飲み物や即席麺をつくる際に湯を沸かす必要もなく、重宝する。しかし、当時、自分含めた同行者4人は、誰一人コップを持っていなかった。


周りを見ると、お湯のみならず、コップも貸し出してくれるようなのだが、それを車掌に伝えることが出来ない。このままではせっかく持参したインスタントコーヒーや紅茶を飲むことも叶わない。cupだのgrassだの言っても、英語は全く通じないため、ポカン顔である。


そのピンチを救ったのが、「スタカーン」であった。物珍しいのであろう日本人4人組に声をかけてきた車掌の甥っ子に「スタカーン」と伝えると、車掌室から4つのコップを持ってきてくれ、快適なシベリア鉄道ライフを送ることが出来た。


余談だが、コップは通常、車掌が販売するちょっとしたお菓子を購入することで普通に貸してくれる。チップ代わりみたいなものなのだろう。そういえばお菓子を売りに来た車掌を「日本人をナメるな!!」とばかりに拒絶した記憶もあり、周囲のロシア人たちは普通にお菓子を購入していることに気付いたのは、イルクーツク-ウラジオストク間の後半戦の車内であった。


記事の中で、車内の飲酒は原則禁止とあるが、普通に飲んでいるロシア人が多かったと記憶している。モスクワ-イルクーツク間では前述の車掌の甥っ子と酒盛りをし、チェイサーとして、こちらの虎の子のオレンジジュースをがぶ飲みされて閉口した。イルクーツク-ウラジオストク間では出稼ぎ労働者らしき男たちに、ウォッカのチェイサーにビールを飲まされ、フラフラになった。ロシア人たちは揃いも揃って酒が強く、冗談のような量のウォッカと、同量のチェイサーを飲む。


酒が入ると猥談に走るのは万国共通のようで、出稼ぎ労働者の男たちからは、卑猥な日本語を教えろと言われた。上記の記事の最終盤、patoさんが旅の相棒に日本語を教える、という場面がある。外国人に教える日本語が「さようなら」というのは粋な話だ。私が教えたのは「スケベ」だけである。さようなら、スケベ。異国の地で、ウォッカを飲みながら「スケベ、スケベ」と連呼したことは、素敵な思い出だが、「さようなら」との落差には目眩がする思いである。


お返しに卑猥なロシア語も教えてもらったが、ノートに書きつけられ、私が発音する度に彼らが爆笑していたその言葉は、どういう意味なのかは分からなかった。帰国後、意味を調べようかとも思ったが、それほどの熱意がなかったこと、また周囲に相応のロシア語力を持つ人間が女性しかいなかったこともあり、今も意味は分からないままである。


およそ、あの旅で出会ったロシア人たちと再び出会うことは、無いだろう。あの日教えてもらった「ロシア語の下ネタ」の意味を知ることも、無くていいと思う。改めていい旅だったなと思います。